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横浜家庭裁判所 昭和45年(少ロ)1001号 決定

被疑者 M・S

被疑少年M・Sに対する強姦並びに強姦致傷被疑事件について、横浜家庭裁判所裁判官が昭和四五年五月一八日なした勾留請求却下決定に対し、右申立人から準抗告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

原決定を取消す。

理由

本件準抗告申立の趣旨および理由は、別紙のとおりであるから、これをここに引用する。よつて審案するに、被疑少年に対する標記事件について、勾留の必要性がないものとして、標記勾留請求却下決定がなされたことは、本件記録により明らかである。

よつて、本件記録に基いて検討するに、共犯者数など相当重要な事実についてまだ明らかでない点があるとは云え、被疑少年が本件被疑事実を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認められる。

次に、被疑少年に罪証を隠滅する虞があるか否かを検討するに、本件記録によれば、次の事実を窺い得る。

一  共犯者であるA、B、Cの捜査官に対する各供述は、犯行にいたる経緯、行動、共謀の場所、程度、共謀者の員数、犯行時の各人の行動について多くの重要な点に不一致がある。

二  右各供述と被疑少年の捜査官に対する供述との間には、犯行参加のいきさつ、共謀の経緯、犯行現場にいたる行動および犯行現場における行為について不一致が多くあり、事実が明らかにされていない。

三  本件犯行に終始重要な役割を果した共犯者Dは、いまだ逮捕されておらず、被疑少年は同人と親しい間柄である。

四  本件犯行は、その現場に向うときから約三台の自動車を用い、かつ多人数(約一〇名)が参加して、広汎な場所的移動を伴つて離合集散したので、各共犯者の行動経路を明らかにすることが共謀関係その他事件糾明に必要であるのに、これに不可欠な各現場の特定、見分がいまだになされていない。

五  被疑少年を含む共犯者らは、逮捕される以前に、事件について否認すべきことを相談し、逮捕された後の供述内容も作為的な点が窺える。

右の事実を勘案すると、被疑少年の責任を明らかにするためには共犯者の供述および参考人の供述によらざるを得ない部分が多いところ、いまだ重要な共犯者は逮捕されず、又、○子某など重要な参考人の取調はなされていないうえ、更に被害者両名、既逮捕の共犯者および被疑少年の供述も現場見分の結果と照合した検討が加えられていないのであつて、その他の事情とあいまつて被疑少年が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由があるものと認められる。

そこで、更に逃亡の虞などの点を検討するまでもなく、被疑少年は刑事訴訟法第六〇条第一項に該当するものと認められる。

最後に、少年法第四八条一項にいう勾留の「やむを得ない場合」に該るかの点について考えると、前記のような状況にあつて、被疑少年を厳正に拘束しないときは捜査に重大な支障をきたすおそれがあるほか、本件事案の罪質を考慮すると、被疑少年を勾留することはやむを得ないものと云わなければならない。

以上のとおりであるから、本件申立は理由あるものと認め、原決定を取消すこととし、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第二項により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 畔上英治 裁判官 新川吹雄 田中昌弘)

別紙

準抗告「及び裁判の執行停止」申立書(甲)

(罪名)強姦、強姦致傷(被疑者氏名)M・S

右被疑者に対する頭書被疑事件につき、昭和四五年五月一八日横浜家庭裁判所裁判官北沢貞男がした勾留請求却下の裁判に対し、左記のとおり準抗告を申し立て、「あわせて右裁判の執行停止を求め」る。

第一、申立ての趣旨

「一」 被疑者は、罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由があるのみならず、刑事訴訟法第六〇条第一項第二、三号に該当することが顕著であるのに、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由なしとして勾留請求を却下したことは、判断を誤つたものであるから、右裁判を取消したうえ、勾留状の発付を求める。

「二」 右勾留請求却下の裁判によりただちに被疑者を釈放するときは、本件準抗告が認容されても罪証隠滅、逃亡の虞れがあるので、本件準抗告の裁判があるまで勾留請求却下の裁判の執行停止を求める。

第二、理由

別紙のとおり

昭和四五年五月一八日

横浜地方検察庁

検察官検事 細谷茂久

横浜家庭裁判所 殿

別紙

一、被疑者が罪を犯したと認めるに足りる相当な理由のあることは一件記録の疎明資料により明らかである。

二、被疑者には罪証隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある。

すなわち、本件は被疑者ら八名位により事前に計画されて行なわれた集団による悪質な輪姦事件であるところ、被疑者M・Sは犯行現場へつくまでの事情は全く知らないと供述して姦淫の事実をも否認しており、被疑者B・Tも同様犯行現場までいつた事情につきよく知らない旨、事前の共謀関係を否認している。

なるほど共犯者中三名は逮捕され、勾留中であるが、ほか三名は現在未逮捕であるうえ、被疑者らを現段階で釈放するにおいては、逮捕された場合に知らないと頑張ろうと共謀している事実(記録第一五五丁)さえあるから勾留のうえ取調べないと未逮捕の共犯者と通謀し、さらに罪証を隠滅するに足る相当な理由のあることも明白である。

なお、共犯者、A(当一九年)は、昭和四五年五月八日に逮捕され、同月一一日横浜少年鑑別所に勾留中、同C(当二二年)、同Bは同月一二日逮捕され、右Cは代用監獄港北警察署に右Bは代用監獄川和警察署にそれぞれ勾留中であるが、右共犯者の供述があいまいであつて共謀関係ならびに他の共犯者の関係が未だ明瞭でない。

三、被疑者には逃亡すると疑うに足る相当な理由がある。

被疑者らは、いずれも独身であり、強姦致傷、強姦という重大な犯罪を犯したものであり、事犯の重要性にかんがみ、その畏怖心から逃亡するおそれなきを保し得ない。

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